奴隷降格

 程なくして、松井と三枝が相次いで庭に現れた。三枝は顔を真っ赤にして怒りの表情を露わにしていたが留美の事よりまず徹のことだった。

 「山の斜面に隠れていると思います。気温が下がっているので心配です」

 塩野が告げると三枝は黙って頷いた。

 「スピーカーを持ってきてくれ、俺が話す」

 塩野はすぐさま拡声器を母屋から持ち出し、三枝に渡した。

 「梶間徹。早く、投降しなさい。そのまま隠れていたら凍え死んでしまうぞ。今、出てくれば君は罪に問わない。風呂に入れて地下室に下ろしてやる。後十分、待つ。それで出てこない場合には君の妹の由希をここに連れてきて素っ裸のまま晒すぞ」

 三枝の脅迫は堂に入っていた。由希をこの寒空の下に連れ出せば徹も観念すると思ったのだ。

 「次は由里だ。十分おきに奴隷をここにつれてきて並べてるぞ」

 三枝はそこで言葉を切って松井を見て得意そうに笑った。

彼の脅迫は図に当った。それから5分後、寒さに全身を震わせている徹が彼らの前に現れた。徹の逃亡劇は終わったのである。

 風呂に入れられた徹が地下室に戻されると三枝は地下組奴隷を除く全員をアトリエに集めた。留美に対する裁判を始めるのである。

 「全員、集まったようだな」

 三枝が褌一枚を身に着けた奴隷たちが腰を落とすのを待って口を開いた。絵里、美加子、麻里の三人は心配げに三枝の目前に蹲っている留美を見つめていたが由里だけはうっすらと笑みを浮かべて事の成り行きを見守っていた。

 「吉橋留美。顔を上げろ」

 三枝の言葉でおろおろと留美は頭をもたげた。その表情は恐怖に引きつり、いつものあの傲慢な態度は微塵も見られなかった。

 「お前は私の制止を無視し、徹を地下より連れ出し、祐子に対する調教に使った。更にそれを隠蔽するために地下室のビデオのスィッチを切った。間違いないか?」

 「ま、間違い有りません」

 留美は震える声で頷いた。

 「これからお前に対する刑罰を言い渡すが何か言いたいことがあったら言ってみろ」

 「三枝様に申し上げます」

 弁明の機会を与えられた留美は堰を切ったようにしゃべり始めた。

 「私が三枝様の言いつけに反して徹を連れ出したことは私の思い上がりで有り深く反省致します。しかし、今日まで三枝様のために誠心誠意を持って尽くしてまいりました。どうか、奴隷に戻すことだけはご容赦下さいませ」

 言い終えた留美は三枝の足に取り縋って泣き声を上げ始めた。奴隷に戻されることを留美は一番、恐れていた。奴隷たちが留美に対してどのような態度を取るか、それを思うと留美は心が凍る思いがしていた。

 「なるほどな、お前の今日までの働きは認めてらねばならない。しかし、刑罰を受ける人間が服を着ていては話にならん。裸になれ」

 三枝の言葉に留美はすぐささま反応する。ジャージを手早く脱いだ留美は褌も剥ぎ取り、あっとう間に素っ裸となり三枝の足元に傅いた。とにかく三枝の怒りを静めねばと留美は思っていた。

 「それでは留美に対する刑罰を下そう」

 三枝は周囲を見回して口を開いた。恵子は心の中で留美の奴隷降格だけはないように祈っていた。彼女にとって留美はあらゆる意味で頼れる先輩だったのである。

 「まず、私の命令に背いて徹を連れ出したことに関する罪。留美を奴隷降格とする」

 やはり、奴隷降格であった。留美は溢れ出しそうになる涙を堪えて三枝の次の言葉を待った。

 「続いてモニタールームのビデオの電源を落した罪。浣腸、排泄とする。この刑はただちに執行される。続いて、徹の逃亡を許した罪、剃毛とする。この刑もただちに執行される。最後に無断で徹と交わった罪、地下室に置いて、三日日間の後手錠と処す。この刑は明朝に執行される。以上だ」

 「待って下さい」

 次の指示を与えようとする前に留美は三枝の腕に取り縋った。

 「準奴隷に昇格する機会をお与え下さい。私は今まで三枝様の・・・」

 三枝は留美に最後まで言わせずその頬を打ち据える。

 「その機会は私が考える。奴隷のお前にとやかく言われる筋合いはない」

 新たな怒りを買ってしまった留美は視線を下に落したまま立ち竦むしかなかった。

 松井と塩野が左右から留美の腕を取った。

 「両手を後に廻しな。素直にお仕置きを受けるんだぜ」

 松井の言葉遣いに奴隷となった事を実感した留美は両腕にキリキリ縄を掛けられながら涙を流している。 思うが侭に奴隷たちの上に君臨していた日々は戻らないと留美は諦めに近い気持ちの中に沈んでいた。