栗山の初夜

 「あははは、そうか、それはうまい手を考えましたね」

 モニタールームで栗山のアイデアを聞いた三枝は大笑いをしていた。

 「しかし、新婚のあんたがさっそく浮気とは祐子も可哀想ですな」

 三枝にからかわれて栗山はにやりと笑った。

 「まあ、今晩、弘美は小さな胸を震わせているでしょうね」

 栗山に言われて三枝は地下室のカメラを弘美に合わせた。

 弘美は目を閉じて冷たい床の上に横たわっていた。どこかしら頬が震えているように見えた。

 「しかし、弘美の母親っていうのはそんな美人なんですか?」

 三枝が興味を持ってきたので栗山はポケットから写真を取り出した。それを目にした三枝は深い溜息を付いた。

 ビデオからプリントアウトしたものだから画像を良くないが着物をきりっと着こなした目元のパッチリとした美女が悲しみの色を浮かべていた。

 「これじゃ、三十前だと言っても通りますね。とてもあんな大きな娘が居るように見えませんわ」

 三枝はしばらく写真を見てから口を開いた。

 「栗山さんのアイデアをそっくり戴いて宜しいですか?」

 「え、彼女を誘拐するんですか?」

 「こうなってくると贅沢になってくるんです。年増女も一人くらい加えたいと思ってます」

 三枝がまた危険を冒そうとしていることに栗山は驚きを隠せなかった。栗山が弘美を脅かすために用いた手段が現実となるかもしれない。弘美にとっては泣いても泣ききれぬ事態になる可能性があった。しかし、二人の悪魔はこの新たな計画を練るために額をつき合わせているのだった。

 祐子は栗山の部屋で待たされていた。結婚式からくたくたにされた祐子は少し気持に余裕を持ち始めていた。

 最早、栗山に抱かれる事に恐れは無かった。良美の貞操だけは何としても守るために栗山に懇願してでも頼むつもりだった。

 「やあ、待たせたね」

 酒の酔いに目の周りを赤くした栗山が姿を現すと祐子は縛り上げられた裸体を思わず捻ってしまう。

 「のっけから嫌われては叶わないね。僕の妻なんだから笑顔で迎えてくれよ」

 栗山は愚痴のような言葉を吐くと祐子の正面に廻りその顔を覗きこんだ。

 祐子は暫く瞑目して何かを考えていたが決意を固めるとそっと憂いの篭る瞳を開いた。

 「栗山さんが私を愛してくれるのですね。ならば私はあなたの妻になります」

 「よく、言ってくれた。祐子」

 いきなり栗山が唇を求めてきたのを祐子は避けると次の言葉を続けた。

 「妻ならば妻らしく扱って下さい。これではまるで奴隷ではありませんか?」

 涙を滲ませて訴える祐子を見て栗山は苦笑いを浮かべた。

 「さっそく妻の権利を主張するのか?それは出来ない。君が心底、僕に惚れるなら由里みたいな準奴隷にすることも可能だが」

 「もう、覚悟しました。あなたに縋るしか有りません」

 祐子は真剣な表情で栗山を見つめて決意を語った。しかし、栗山は動じなかった。

 「それはいい心掛けだ。暫くはこのまま辛抱してくれよ。いいだろう?」

 栗山は顔を近づけ、囁くような声音で祐子に言うと唇を合わせた。祐子も差し入れてきた栗山の舌を優しく愛撫する。なんとしても良美のことを約束させたい祐子は必死に媚態を演じていた。

 熱い口付けを交わした後で息を弾ませている祐子は頬を擦り合わせるようにして鼻を鳴らした。

 「お願い。何でもあなたの言うとおりにします。あなたの気に入られる女になるよう努力します。ですから、良美さんだけはあのまま静かにさせておいて欲しいの」

 「ふーむ。妹、思いなんだね」

 栗山の瞳が残酷そうに光り輝いたのを祐子は知らなかった。栗山は頭の中で再び祐子を追い詰める算段を考え始めたらしい。

 「でも、彼女の管理は三枝さんに一任されている。僕の一存ではどうにもならない」

 「なら、お願い。三枝さんにお願いして。じゃないと、私、私・・・」

 祐子は栗山の胸に縋って泣き声を上げ始めた。栗山はそんな祐子の姿をいとおしむように見つめながら髪の毛を弄んでいる。

 「何でも僕の言うとおりにするんだね」

 「ええ、するわ」

 涙に濡れた瞳を開いて祐子がはっきりと頷くと栗山は彼女の肩を抱いて立ち上がらせた。

 「君が僕を嫌いになったのは何故?」

 栗山は昔のことを思い出させて祐子を言葉でいたぶろうと考えていたのだ。案の定、祐子は羞恥に頬を赤らめ、苦悶し始める。

 「そ、それはあなたが私のおしっこをする姿を見たいなんて言うから・・・」

 「今は平気なんだろう。あれだけ僕への愛と忠誠を誓ったんだから」

 「ええ、平気だわ」

 祐子がこっくりと頷くと栗山はその柔らかな肩を押した。

 「じゃあ、見せて貰おうか」

 トイレに導かれた祐子は栗山の手で褌を剥ぎ取られると洋式の便座に腰掛けようとした。

 「そのままじゃ、つまらないだろう。僕に良く見えるような格好でしてくれよ」

 5年前の出来事を思い出しながら栗山笑みを浮かべて便座を跳ね上げた。

 「その上に乗っかっておしっこをしてくれ」

 祐子の頬に赤みが刺した。栗山の考えたポーズが屈辱的なので逡巡しているのだ。

 「どうした?出来ないのか。言葉では僕のものになるなんて言いながら心のどこかでは旦那のことを忘れられないんだろう」

 「ち、違うわ」

 強い口調で突っ込まれた祐子は思わず大きな声で否定した。実際、夫のことは頭に無かった。栗山に気に入られない限り、この地獄のような生活を抜け出すことは出来ないと祐子は気持に整理を付けていたのだ。

 「は、恥ずかしいから・・・」

 耳まで赤く染めて羞恥に悶える様を見せた祐子を栗山は思わず抱きしめたくなった。しかし、そんな態度はおくびにも出さず栗山は便器の前に胡坐を掻くと羞恥に震える祐子を見上げる。

 「もう、夫婦なんだからそんなことで恥ずかしがってちゃ話にならないよ。さあ、早く乗って」

 「そうね。私もどうかしてたわ」

 踏ん切りを付けた祐子は怯える心を叱咤して、便器の上に跨った。

 栗山の前にあからさまに羞恥の姿を露呈することに女の本能が拒否反応を示していた。しかし、踏ん張る両足はガクガクと震え、その頬は燃え上がるほど赤く色付いている。

 「駄目だよ。目なんか閉じては。僕に見られるのが嬉しくなるくらいにして貰わないと」

 栗山の抗議で目を開いた祐子に自分の股間を覗き込む栗山の姿が飛び込んできた。

 (こんな男の言いなりになるなんて)

 祐子は喉元まで込み上がってきた嫌悪の感情を押さえ込むと大きく息を吐いた。

 「さあ、始めてくれ」

 栗山は上ずった声で命令した。5年前、自分を罵倒し、目の前から姿を消した女が今、大股を開いている。栗山は心の中で喝采を叫んでいる。言葉ではいたぶっていてもそれが彼の愛情表現なのだ。

 祐子は唇を固く結び身体を震えを収めるように大きく深呼吸すると放水を開始した。

 「駄目だよ。震えちゃ」

 ガタガタと腰を揺らし始めた祐子の膝頭を抑え付けながら便器に飛び散る飛沫に目を凝らすのであった。

 「それにしても夢のようだ。こうやって君のおしっこする姿を間近で見れるなんて」

 感慨深げに語った栗山の言葉が震える胸をえぐったのだろう、祐子は遂に嗚咽の声を洩らし始める。勝利感と達成感を同時に感じている栗山は祐子の辛そうな顔と便器の中を交互に見つめ、喜悦の笑みを浮かべるのであった。