留美と徹は折檻部屋を出たのだがその隣のモニタールームに留まっていた。
何と誰もいない事をいい事に留美は寝そべらせた徹の上に跨り、喜悦の声を発していたのである。今夜、塩野との約束があるにも拘らず、留美は徹の表情を見ているうちに口付けをし、そのおかげで身体の奥に着いた火が消すに消せなくなっていたのである。
髪を振り乱して、乳房を揉みながら貪欲に快楽を貪る留美を見上げながら徹は醒めた目をしていた。ここに捕われて一ヶ月以上、経過した今まで、毎日のように恥辱に塗れていた徹は女の本能の性とでも言うものを嫌というほど見てきた。そして、いつもは自分を犬のように扱う留美でも一皮剥けば、一匹の牝として自分の肉棒を相手に狂乱するのだと思うと留美の折檻を恐れて唯々諾々の日々を送っていた自分が馬鹿らしく思えてきたのだ。
「あー」
大きな溜息を付いて留美は頂点に到達したらしい、徹の上に覆いかぶさった留美はその余韻に浸っているらしくうっとりと目を閉ざしたまま頬擦りを繰り返している。
徹は射精しなかったが留美の動きが止まったお陰でその興奮は一気に冷めていった。
徹が洩らしていないことに気が付いても留美は鼻息を一つ洩らしただけで何んの言葉も吐かず冷笑を浮かべると立ち上がり、徹の肩を抱いた。
「地下室に返してやるよ。立ちな」
徹の背を押して庭に進み出た留美は終わったら付き添ってやるという塩野の言葉を忘れていた。
「な、何をするの」
いきなり、徹に突き飛ばされ、腹にしたたかに蹴りを打ち込まれた。留美は叫びも上げられずにのた打ち回った。
徹は夜闇に紛れて逃走したのだ。もちろん、留美に油断が合った事は事実だった。それ以上に監禁され、勝手に運命を変えられた徹の怨念のようなものがその行動を支配していた。
「た、助けて」
ようやく声を上げた留美の叫びを聞いて、塩野と恵子が庭に走り出た時には徹の姿は消えていた。
「だから、言わないこっちゃ無いよ。先輩。三枝さんに知られたら大変だよ」
恵子が泣きながら言っても未だに徹に蹴られたダメージが残る留美は苦しげな息を吐くだけであった。
「大丈夫だ。庭からは出ていないようだ」
二メートルの塀を後手錠の徹が飛び越えられるわけが無いと確信した塩野は木戸が閉まったままなのを確認して安堵の表情で戻ってきた。
しかし、三枝が戻る前に事態を収拾しないとえらい事になると考えている恵子は気が気ではなく、塩野に捜索を懇願するのだった。
「ねえ、早く、探してよ。三枝さんが戻ってくるよ」
「こういう時は慌てちゃ駄目だ。徹は素っ裸でこの寒さだ。朝まで外にいたら死んでしまうぜ。そうだ、松井の携帯に連絡を入れてくる」
塩野が家の中に消えると恵子はショックに呆然としたまま座り込んでいる留美の傍らに寄った。
「三枝さんに知られちゃうよ。留美先輩。逃げなよ。どんな目に遭わされるか判らないよ」
必死に問いかける恵子の言葉に留美は重そうな口をようやっと開いた。
「天罰が当ったんだよ。私が天狗になりすぎてたんだ。仲間を裏切っていい気になってたんだ」
「そんな事はどうでもいいよ。先輩。逃げないと殺されるかも知れないよ」
留美が三枝の警告を無視して徹を連れ出したことに原因があると理解している恵子は再度、逃亡を促した。
しかし、塩野が二人に近づいてきたことでその機会は失われてしまった。
「もう、すぐ到着するようだ。三枝さんの指示はここを動くなだ」
塩野は山に向かって腰を落とすとタバコを吸い始めた。
夜も次第に更けてゆき、気温も下がってきた。吐く息も白くなる高原の秋の夜だった。
それからら三十分程度、経ったであろうか車のエンジン音が聞こえてきた。三枝たちが帰ってきたのだ。留美は精一杯、詫びるつもりだった。しかし、三枝のことだそれで済む事はないと留美も承知していた。
地上組の奴隷たちも二階の松井部屋で事の成り行きを見守っていた。
徹の面倒を何かと見ていた絵里と恋人の由里は事の他、心配そうな表情で窓の外を見守っていた。
「ねえ、絵里。あんたまで心配してくれなくて良いわよ。私の彼氏だから」
「そんなつもりじゃ有りません。徹さんが心配なだけです」
絵里が心配げな表情で戸外を見ていると由里は馬鹿にしたような笑いを浮かべた。
「私は留美がどんなお仕置きを受けるのかそれに興味があるのよ」
絵里ははっとしたような表情になり、由里の横顔を見た。由里は楽しげな笑いを浮かべながら戸外を見つめていた。