静かなる恐怖

 折檻部屋では祐子と良美が裸体を寄せ合っていた。

 昨夜は栗山の飽くことの無い欲情に朝方まで眠ることを許されず、折檻部屋に帰されてから眠りに着いた祐子は先程、目覚めたばかりだった。

 一人ぼっちで心細い思いを強いられていた良美は昨日の出来事を祐子には話したくてうずうずしていたのだ。

 「お姉さん。私たちは大変なところに拉致されたみたいよ」

 「大変なところ?」

 「昨日、若い子が裸でたくさんいたでしょう?あの人たち、女子高生集団失踪事件の人たちだわ」

 「えっ、本当なの?」

 祐子は信じられぬ思いであった。連日、新聞やテレビで報道され、8人の少女と教師が行方不明になった大事件は祐子は知っていた。その人たちと同じ場所に捕われ、奴隷のような扱いを受けている現実を受け入れ難いのである。

 「島原絵里という人と話したの。三枝という人は悪魔のようだと言っていたわ。あの留美という人は準奴隷だったのを失態をして奴隷に落とされたそうよ」

 「彼女たちも失踪者でしょう?」

 「ええ、三枝に気に入られると準奴隷に格上げされて奴隷を指導できる立場になれるそうよ」

 元は同じ立場に居た奴隷に権限を与えて自分を辱める手先に使っていた三枝の狡猾さは祐子の想像を超えていた。

 「私、怖い」

 良美は大きな身体を被せるようにして祐子の胸に顔を埋めた。悪魔の館に捕われたと知った良美の恐怖は倍増されている。祐子がいかに庇ったとしても庇いきれないことも良美は承知していた。だから余計に恐怖が募る良美であった。

 ドアが不気味な音を立てて開くと栗山と三枝が姿を現した。続いて松井と塩野も顔を見せ、この館にいる男たち全てが顔を揃えた事になる。

 「祐子、君の願いを聞いてあげたかったが良美を渡して貰いたい」

 「な、何をするの?」

 嫌な予感を覚えて祐子は気色ばんみ、良美は恐怖に身を震わせる。

 「彼女にも男を知って貰わないと不都合だと三枝さんが言い出したんだ。僕の言うことを聞いてくれ」

 「嫌よ。昨日何度もお願いしたじゃない?それでも私の願いを無にするの?」

 祐子は涙を滲ませて必死の形相を見せて良美の前に立ちはだかった。何に変えても守らなければならないと誓った良美の貞操を悪魔たちが狙っている。祐子は恐れていた事態が訪れた事を悟らなければならなかった。

 「妻があんな事を言っています。何とかならないでしょうか?」

 既に筋書きが出来ている栗山と三枝は二人で相談する姿勢を見せる。

 相談を終えた三枝は貫禄たっぷりの風情で祐子の前に進み出た。

 「祐子よ。我が与えたる試練を耐え切ればお前の願いを聞き届けてやる。ずっとここに置いて静かに過ごさせてやる。耐えてみるか?」

 「お願い致します」

 祐子は否応も無く頷いた。たとえ無茶な試練であっても祐子は挑まなければならなかった。

 「いい度胸だ」

 三枝の合図を受けた松井が跳ね上げ式の机を下ろすと三枝は祐子にその上に乗るように指示をする。

 祐子は留美によって味遭わされた羞恥責めに晒されるものと思って、その身を横たえた。しかし、三枝と栗山が考えた試練はそんな生易しいものではなかった。

 「お、お姉さま」

 両腕を万歳のように広げられて拘束される祐子を見て良美は泣き出しそうな声を出した。そんな良美を目にした祐子は勇気付けるように微笑み、頷いてみせる。意地のように良美の前では気丈に振舞う祐子であった。

 「さあ、奥さん。両足の力を抜きな」

 皮で出来た足輪を引き締まった両足首に嵌め込んだ松井が声を掛けると祐子は素直に力を抜いた。しかし、松井が天井から垂れ下がる鎖に足輪を繋ぎとめようと片足を持ち上げるとさすがの祐子も慌てだす。

 「な、何をするの?」

 「えへへへ、旦那様に尻の穴までご披露するんだ」

 「嫌、嫌よ」

 屈辱的な姿勢を組まされると知った祐子は自由な片足を振り回して抵抗したが松井だけでなく塩野も手を貸し祐子の両足は垂れ下がる鎖によって吊り上げられてしまう。

 「奥さん。とても恥ずかしい格好にしてやるぜ」

 松井が赤く上気し始めた頬を突付いて笑うと祐子は噛み付きそうな目をして松井を睨み付ける。

 「勝手にすればいいでしょう」

 覚悟を決めたともいえる祐子の言葉を耳にした松井は壁際のスイッチを押した。

 不気味なモーター音と共に鎖が巻き上げられ、祐子のしなやかな両足は垂直に引き上げられてゆく。

 祐子の形の良い、双臀が机の上から浮き上がるとスイッチを離した松井は隣のスイッチを押した。

 再びモーター音が響き渡り上方に吊り上げられた鎖が左右に割れ始めるとそれまで悪魔たちの所業に黙って耐えていた祐子の口からつんざくような悲鳴が上がった。

 「何をするの?止めてよ!止めて」

 極端な羞恥の姿勢を取らされると悟った祐子が取り乱し、広げられてゆく二肢をなんとか取り戻そうと必死に足掻いても悪魔たちの失笑を買うだけであった。

 遂にしなやかな両足は九十度以上にも広げられ、天に向かって突き上げるという開股の姿姿を取らされた祐子が屈辱に声を震わせて泣き始めたところで鎖は静止した。

 悪魔たちに何か毒づこうとしても祐子は喉が詰まって声が出ない。汚辱に震える内心とは裏腹に見ているものにとって羞恥の源を堂々と晒す大胆なポーズを祐子が取っている夜に映じるのだ。

 そのおぞましい姿態を目にした良美は余りの恐怖に顔を伏せ、床にしゃがみ込んでしまう。自分のために祐子がこんな見るに耐えられぬ姿勢を組まされたと思っている良美は祐子に対する呵責の情が溢れてくる。

 栗山は自分が考え出したメカニズムで祐子が想像通りの姿態を晒していることに満足の笑みを洩らしていた。悪魔たちの祐子への折檻は始ったばかりであった。